チームの対話を変える「Yes, and」。ネガティブもポジティブもまるごと受け取るということ

「それ、こう考えれば良かったんじゃない?」

言ったこと、ありませんか。あるいは、言われたことはありますか。

励ましているつもりで口にしたその言葉が、実は相手の本当の気持ちを置き去りにしてしまっているかもしれません。

「Yes, and」とは、相手の言葉をそのまま受け取り一緒に可能性を広げていく考え方です。変換するのではなくともに探るという姿勢が、チームの対話を根本から変えていきます。

心理的安全性アンバサダー協会の「心理的安全性アンバサダー講座」で「Yes, and」というワークに出会い、これは対話だけでなくチームビルディングや人間関係にも広く活かせる考え方だと感じました。今回はその「Yes, and」についてコラムにまとめてみます。


「前向きに考えよう」が、対話を浅くしている

プロジェクトがうまくいかなかった。メンバーが「もう無理かもしれない」と打ち明けてきた。

そんなとき、こんな言葉をかけていませんか。

「大変だったね。でも、おかげでこういう学びがあったんじゃない?」 「気持ちはわかるけど、前向きに考えていこう」

悪意はなく、むしろ相手のことを思って懸命に言葉を選んでいる。
でも、その瞬間に何が起きているかというと——相手が抱えていたネガティブな感情が、会話の外に追い出されているのです。

「大変だった」という気持ちは「学びがあった」という言葉に変換された瞬間十分に扱われないまま終わってしまいます。表面的な理解で対話が閉じてしまう。

これは「捉え方の変換」です。ネガティブをポジティブに言い換えてあげようとする関わり方です。善意から来ているだけに気づきにくい。

でも変換しようとすればするほど不思議なことに相手との距離は開いていきます。「この人には本音を話しても受け取ってもらえない」という感覚が、じわじわと積み重なっていくからです。


即興演劇(インプロ)から生まれた「Yes, and」というルール

「Yes, and」は即興演劇(インプロ)の世界で大切にされてきた考え方です。

その考え方を体感できる、こんなワークがあります。

参加者が輪になって、ひとりがアイデアを出す。次の人はそのアイデアをまず「いいね!」と受け取り、そこに自分のアイデアを加えて次の人へ渡す。受け取った人もまた「いいね!」と言って、さらに自分のアイデアを乗せていく——。

この繰り返しだけで、場の空気がガラッと変わります。

どんなアイディアも「いいね!」と受け取ってもらえることの安心感。そして、誰かのアイデアに自分のアイデアが重なって思ってもみなかった方向に話が広がっていく面白さ。体験してみると言葉で説明する以上にその感覚が伝わってきます。

即興の世界には、正解がありません。台本もなければ予測もできない。だからこそ「まず受け取る」というルールが場を成立させる根幹になっています。

このワークが体感させてくれるのが「Yes, and」の本質です。


ネガティブもポジティブも、両方持ったまま対話するとは

「Yes, and」が大切にしているのは、相手からどんな言葉が出てきてもまずそのまま受け取るということです。 ネガティブな発言がでてきたらネガティブのまま受け取り、ポジティブな発言がでてきたらポジティブのまま受け取る。どちらかに変えようとしない。

これは同意することでも同調することでもありません。相手の隣に並んで同じ景色を見るようなイメージです。

その上で、自分の言葉を「and」として加えていく。そこから初めて一緒に次を考えることができます。

会議でも、1on1でも、ブレストでも。誰かの発言を「まず受け取る」ことで次の発言が生まれやすくなる。
「いいね!」という一言が場に流れる空気を変えていきます。


「Yes, and」が心理的安全性の土台をつくる理由

「Yes, and」の積み重ねが、心理的安全性の土台をつくります。

心理的安全性とは、端的に言えば「何を言っても大丈夫」という感覚です。では、その感覚はどうやって生まれるのか。

どんなアイデアを出しても受け取ってもらえる。
ネガティブな本音を話しても否定されない。
失敗を打ち明けても責められない。

そういう体験が少しずつ積み重なることで、「この場では本音を言っても大丈夫だ」という安心感が育っていきます。

逆に言えば一度「あ、この人には本音を言えないな」と感じたら、その後の発言はどんどん減っていきます。言おうとして反対されそうだから止める。笑われそうだから黙っておく。そうやって発言されなかったことが、チームの間に溝を作っていきます。

逆に「Yes, and」が積み重なると、ミスも迷いも話せるようになる。いいアイデアはさらに育ち、問題は早いうちに共有される。それがチームの絆になり、ポジティブだけのチームには出せない強さになっていきます。

ひとつ私の好きな話をします。35年以上活動を続ける東京スカパラダイスオーケストラのメンバーがNHKの「あさイチ」に出演した際、こんなことを話していました。誰かが思いついたアイデアは必ず一度試してみると。

「必ず試す」というのは簡単ではありません。受け取るだけでなく実際にやってみる。やってみたら、アイデアを出した本人が「やっぱり違う」と気づくこともあるだろうし、他のメンバーの「and」によってさらに良いアイデアに育っていくこともある。

東京スカパラダイスオーケストラは正式なリーダーを立てていないんだそうです。その状況でメンバー9人が35年以上、誰かのアイデアをまず受け取って試してみることを続けてきた。「Yes, and」が根づくとチームはこうなるのか、と思いました。


「Yes, and」の姿勢を、チームの対話に活かす

では、実際にどうすればいいのか。

特別なトレーニングや難しいスキルは必要ありません。まず「姿勢として持つ」ことから始められます。

会議の場で 誰かが意見を出したとき、すぐに「でも」と返すのをほんの少し止めてみる。「それ、面白いね」「なるほど」とまず受け取ってから自分の考えを加える。それだけで次の発言が出やすくなります。 「でも」から始まる返しは、意見を否定しているつもりがなくても、発言した側には「受け取ってもらえなかった」と感じさせることがあります。最初の一言を変えるだけで、場の空気は静かに変わっていきます。

1on1の場で メンバーが「うまくいかなかった」と話してきたとき、すぐに解決策を出すのを一度止めてみる。「そうか、うまくいかなかったんだね」とまず受け取る。ネガティブをポジティブに変換しようとしない。 それが、相手にとって「話してよかった」という体験になります。1on1で本音が出てくるようになるのは、アドバイスをもらえるからではなく、ちゃんと受け取ってもらえると感じられるからです。その積み重ねが、チームの中に「ここなら話せる」という感覚を育てていきます。

ファシリテーターやリーダーが「Yes, and」の姿勢を意図的に場に持ち込むことで、チーム全体の対話の質が変わっていきます。

「まず受け取ってから自分の考えを加えてみよう」。その意識を持つだけで対話もチームの空気も変わってきます。


おわりに

「Yes, and」は特別なスキルではありません。

相手の言葉を受け取ること。それだけです。

ネガティブを消そうとしない。 ポジティブに変換しようとしない。 ただそこにあるものをそのまま受け取って一緒に次を考えていく。その積み重ねがチームの信頼をつくっていきます。

対話は技術である前に姿勢です。「Yes, and」の姿勢を持つ人が一人いるだけで、場の空気は変わります。そしてその姿勢は必ず周囲に伝わっていきます。

つなばでは、「Yes, and」の考え方を体感できるワークショップや、チームの対話を設計する伴走プロジェクトを提供しています。「うちのチームの対話、変えてみたいかも」と思ったら、ぜひ一度ご相談ください。

お問い合わせはこちら tsunaba.com/contact/

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