心理的安全性、再考。健全な対立と学習するチームをつくることとは


「心理的安全性」という言葉に、少し食傷気味になっていませんか。

ここ数年でビジネスシーンに急速に広まり、研修や1on1のキーワードとして頻繁に登場するようになりました。一方で「もう古い」「うちの会社でもやったけど何も変わらなかった」という声も聞こえてきます。それはなぜか…? 言葉の広まりに、本質の理解が追いつかなかったからではないでしょうか。

試しに「心理的安全性 誤解」と検索してみてください。何ページにもわたって、理解を正す記事が並んでいます。それほどこの言葉は、広まる過程でさまざまな解釈を生んできました。なかでも私が気になったのが「心理的安全性=仲良しクラブ」という誤解です。

そして気をつけたいのが、正しく理解して取り組んでいるつもりでも、気づいたらなんとなく和やかなだけのチームになっていた——という落とし穴があることです。言葉は合っているのに、着地点が「仲良しクラブ」になってしまっている。

では、あなたのチームはどうでしょうか。

あなたのチームに、言いたそうな顔をしているのに黙ってしまうメンバーはいませんか? 問題に気づいていても、波風を立てたくないから黙っていた——そんな空気が漂っていることはないでしょうか。それが一度でもあるなら、心理的安全性はまだ本当の意味で育っていないかもしれません。


「心理的安全性」はトレンドじゃない、基本だ

心理的安全性(Psychological Safety)という概念を世界に広めたのは、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授です。彼女の著書『恐れのない組織』では、心理的安全性をこう定義しています。「チームの中で対人リスクを取っても安全だという共通の信念」。

対人リスク、というのがポイントです。意見を言うこと、質問すること、失敗を報告すること、懸念を表明すること——これらはすべて、ある意味で「リスク」を伴います。「こんなことも知らないのかと思われるかも」「余計なことを言って空気を壊すかも」「責任を押しつけられるかも」。そういった不安を感じずに行動できる状態が、心理的安全性のある環境です。

この概念は1990年代から研究されてきたもので、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」によってチームのパフォーマンスに最も影響する要素として注目を集めました。ブームは後からついてきたに過ぎません。

心理的安全性は流行ではなく、複数の人が集まって何かを成し遂げようとするとき、いつの時代も必要になる基礎的な条件ではないかと思います。「もう遅れている」と感じているとしたら、それは言葉のブームに飽きただけで、概念そのものの重要性は何も変わっていません。


仲良しクラブとの違い——「居心地」と「安全性」は別物

「心理的安全性がある職場」と聞いて、どんな場面を思い浮かべますか? 笑顔が多くて、ランチも一緒に行けて、誰とでも気軽に話せる——そんなイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。

でも、それは「居心地が良い職場」であって、心理的安全性がある職場とは少し違います。居心地の良さを優先するチーム——いわゆる仲良しクラブ的な場——の特徴は「対立を避けること」です。みんなが同調して、表面上は和やかでも、誰かが問題に気づいても「言わないでおこう」という選択をしやすい。居心地の良さを守るために、都合の悪い事実には目をつぶる。

一方、心理的安全性がある場では、「健全な対立」が生まれやすくなります。バチバチと張り合うのではなく、「私はこう思う」「その意見には賛成できないな」と率直に意見を出し合い、それをちゃんと受け取り合える状態のことです。意見の違いが表に出る。失敗を隠さず報告できる。問題が起きたとき、誰かに押しつけるのではなく「チーム全体の課題」として向き合える。

心理的安全性が機能しない組織には、大きく2つのパターンがあると私は感じています。ひとつは今述べた「仲良しクラブ型」——対立を避けて馴れ合う、居心地優先の組織。もうひとつは「圧力型」——上からの強い指示や罰則への恐れから、声が上がらなくなる組織です。

過去に発覚した組織的な不正の事例を振り返ると、「おかしいと思っていたけど言えなかった」という声が後から出てくることがあります。それでも声が上がらなかったのは、問題を指摘することへの恐れがあったからではないでしょうか。上からの圧力、報復への不安、「言っても変わらない」という諦め——これらはすべて、心理的安全性が機能していなかったサインです。

形は違っても、どちらの組織も「言えない」という状態が根にあります。心理的安全性とは、居心地の良さを追求することではなく、「ちゃんと言える・ちゃんと聞かれる」という信頼の土台をつくることです。


誰も置き去りにしない——責任の分散とチームの学習

心理的安全性についてもう一つ、見落とされがちな側面があります。それは「誰も置き去りにしない」という姿勢です。

チームで何か問題が起きたとき、あなたの組織ではどうなりますか? 担当者が責められる、上司が怒る、原因究明よりも犯人探しが先になる——そういった場面が繰り返されると、人は「問題を見なかったことにしよう」と学習していきます。失敗を隠す、異変に気づいても報告しない。それが積み重なった先に何が起きるかは、想像に難くありません。

心理的安全性のある環境では、問題はチーム全体のものとして扱われます。「なぜこうなったか」を、責任者を吊るし上げるためではなく、次に活かすために話し合う。一人に重荷を負わせず、学習の機会として共有する。

エドモンドソンはこれを「チーム学習」と結びつけて論じています。安全性があるからこそ、人は惜しみなく情報を出し、試行錯誤できる。失敗を隠さないから、チームは賢くなっていける。

「見なかったことにする」文化と「チームで向き合う」文化——この違いが、組織の学習能力を長期的に決定します。心理的安全性は、チームが成長し続けるための土台なのです。

では、そういった安全性のある場では、リーダーシップはどんな形をとるのでしょうか。


「輪のリーダーシップ」——心理的安全性が生む、有機的なチームのかたち

橋本正徳さんの著書『会社は仲良しクラブでいい』を読んだとき、とても共感する部分がありました。この本で言う「仲良しクラブ」は、対立を避けて馴れ合う集団のことではありません。信頼をベースに、それぞれが自律して動けるチームのあり方を指しています。社長が管理をやめ、思い切ってそれぞれに任せると人はちゃんと動く。得意なところでリーダーシップを発揮すればいい。そのタイミングは役割や案件のフェーズによって変化していく——というメッセージです。

この考え方から着想を得て、私が「輪のリーダーシップ」と呼んでいるイメージがあります。

チームはみんなが手を繋いで輪になっている。基本的に上下はない。輪は緩やかに回転していて、そのタイミングとフェーズに応じてリーダーの位置に来た人がリーダーシップを発揮する。リーダーは1人に固定されるのではなく、誰もがなり得る。

たとえばプロジェクトの立ち上げ期は企画が得意な人が前に出て、実装フェーズでは技術に強い人が、発表の場ではコミュニケーションが得意な人が——というように、フェーズに応じて自然と担う人が変わっていく。

これは「誰が仕切るか決まっていないカオス」ではありません。それぞれの強みや役割を尊重しながら、状況に応じて最適な人が前に出る、有機的な動き方です。

似た事例として、大阪にある水産加工会社「株式会社パプアニューギニア海産」があります。工場長が「フリースケジュール制」を導入し、従業員が好きな日に、連絡なしで出勤できる仕組みをつくったところ、生産性が上がり離職率も下がったという実例です。管理を手放すことで、人が自発的に動き始めた。このケースも「輪のリーダーシップ」的な発想と重なります。

心理的安全性がある場では、こういった有機的なリーダーシップが自然と育ちます。逆に言えば、誰かが常にコントロールしなければ動かない組織は、まだ安全性が十分でないサインかもしれません。


対話がチームを変える——心理的安全性をつくるための実践

では、心理的安全性はどうやってつくっていくのでしょうか。

最初に伝えておきたいのは、研修を1回実施したり、ルールを設けたりするだけでは根付かない、ということです。心理的安全性は「宣言するもの」ではなく「日々の積み重ねでつくるもの」だからです。

まず試してほしいのが「Yes, and」の姿勢です。

以前のコラムで詳しく書いているので、ぜひ読んでみてください。 → チームの対話を変える「Yes, and」。ネガティブもポジティブもまるごと受け取るということ

誰かが意見を出したとき、すぐに「でも」と返すのをほんの少し止めてみる。まず受け取ってから、自分の考えを加える。それだけで場の空気は変わり始めます。

失敗の報告を責めずに受け取ることも同じです。「なぜそうなったの?」と詰めるのではなく「教えてくれてありがとう。次にどうするか考えよう」という反応を積み重ねる。この小さなやり取りの積み重ねが、チームの文化をつくっていきます。

もう一つ意識してほしいのが、リーダー自身が「わからない」「失敗した」を先に言う姿勢です。メンバーは、リーダーが弱さを見せられる場かどうかを、よく見ています。上の人が率先して本音を出すことで、チーム全体に「ここなら言っていい」という空気が生まれやすくなります。

「何かあったら言ってね、相談してね」と伝えても、声を出してくれる人はなかなかいません。「ここなら言っても大丈夫」という実感が先にあるから、人は話し始めます。その実感は、宣言ではなく日々の受け取り方で育っていくのです。


まとめ——「再考」から始まる、チームの変化

心理的安全性は、ただ居心地の良い場をつくることではありません。対立を避けて和やかに過ごすことでもありません。

それは、意見の違いを表に出せる場、失敗を隠さずに報告できる文化、誰か一人に責任を押しつけない姿勢——そういったものが積み重なってできる、チームの基盤です。そしてその基盤があってこそ、チームは失敗から学び、対話を重ねながら成長し続ける「学習するチーム」へと育っていきます。

言葉がブームになり、形だけが広まり、本質が失われていく。そのサイクルを何度も見てきました。だからこそ、今あらためて「再考」したい。心理的安全性とは何か。自分のチームに何が足りているか、あるいは足りていないか。

あなたのチームは、今どんな形をしていますか? 誰かの声が、届かないままになっていないでしょうか?

その問いを持ち続けることが、変化の最初の一歩です。


「心理的安全性を高めたいけれど、何から始めればいいかわからない」「会議では意見が出ない、1on1でも本音が出てこない」——そんな悩みを持つチームや組織に、つなばは伴走しています。対話の場をいちからデザインすることも、既存の会議やワークショップを見直すことも、一緒に考えます。まずはお気軽にご相談ください。

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参考書籍

  • 『恐れのない組織』エイミー・C・エドモンドソン(英治出版)
  • 『会社は仲良しクラブでいい』橋本 正徳(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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